世界一の民陶と称された、暮らしの器
大分県日田市の山あい、皿山(さらやま)地区。ここに、約300年にわたり、その伝統的な技法を「一子相伝」で守り続けてきた焼き物の里があります。それが**小鹿田焼(おんたやき)**です。
昭和初期、思想家の柳宗悦(やなぎ むねよし)によって見出され、彼が提唱した「民藝運動」の中で「世界一の民陶」と絶賛されたことで、その名は全国に知れ渡りました。柳は、名もなき職人たちが作る日常の道具にこそ本当の美が宿る「用の美」を説き、小鹿田焼をその象徴として高く評価したのです。
小鹿田焼を象徴する、伝統の装飾技法
小鹿田焼の魅力は、その素朴で幾何学的な文様にあります。これらはすべて、職人が蹴轆轤(けろくろ)を回しながら、手作りの道具を使って一つひとつ生み出していきます。
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飛び鉋(とびかんな) 湾曲した金属の鉋(かんな)を、回転する器の表面にリズミカルに当てることで、連続した削り模様を刻む技法。小鹿田焼を最も象徴する文様です。
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刷毛目(はけめ) 白い化粧土を塗った刷毛を器に当てて、菊の花のような、あるいは風車のような躍動感のある模様を描く技法です。
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流し掛け(ながしかけ) スポイトなどに入れた釉薬を、器の上から垂らし掛けることで、自然で大胆な模様を生み出します。
これらの伝統技法から生まれる器は、一つとして同じ表情がなく、日々の食卓や一杯のお茶の時間に温もりと彩りを加えてくれます。
自然と共に在る、ものづくりの風景
小鹿田焼のもう一つの特徴は、その製法が徹底して自然の力を利用していることです。陶土を砕くのは、川の流れを動力にした唐臼(からうす)。集落には、この唐臼が土を搗く音が心地よく響き渡り、その音は「残したい日本の音風景100選」にも選ばれています。
機械を一切使わず、土や釉薬もすべて地元のもの。ろくろは足で蹴り、窯は薪で焚く。300年間変わらない手仕事の風景そのものが、小鹿田焼の無垢な美しさの源泉なのです。
国の重要無形文化財にも指定された小鹿田焼は、まさに大分が世界に誇る「生きた文化遺産」と言えるでしょう。